パドルビーはどこに(2)

 しかしこの村が本当にパドルビーのモデルなのかというと、多少の違和感も覚えました。確かに垣根に囲われた広い庭の館もありますが、少し小さいかな。何しろドリトル先生の家の庭は1エーカー(1200坪ばかり)ほどもあって、様々な鳥や動物たちがそこで暮らしているわけですから。あるいは私たちの入れないところに、もっと大きな庭を持った館があるのかも知れませんが。
 それにもうひとつ、ロフティングの本の中でパドルビーは「町」と書かれてあり、しかも帆掛け船の行き交う王者橋という大変古めかしい石橋がかかっているとあります。挿絵の中にも、後にドリトル先生の助手になるスタビンズ少年が、橋のたもとに腰を掛けて行き交う船を眺めているものがあったと記憶します。これでは全く大きさが合いません。

 たまたま、私たちの知人の一人が同じ時期にイギリスに滞在していて、その人は日本の自宅をイギリス人と夏の間だけ交換して住んでいたそうですが、Bradford on Avonというその町の写真を見せてもらった時、まさに上に書いたイメージにぴったりなのに驚かされました。大きな川と石の橋、しかもこじんまりとした町。ブラッドフォード・オン・エイボンもやはりブリストルの近くにある町です。作者はこの地域に住んだことがあるのかどうか判然としませんが、自分の生まれ育った町を含めいくつかの町のイメージが渾然一体となって生み出されたのだろうと想像されます。
 先程のカースル・クームはJ.オースティンの「高慢と偏見」の映画のロケ地でもあったと村の入り口に書かれてありましたから、イギリス人にとってもある時代の典型的な、また懐かしい雰囲気を持った場所なのでしょう。

 ドリトル先生はいつも、長い冒険の旅の最後に、パドルビーの我が家に帰ってきます。
 明るく静まったカースル・クームの村の通りに、
 ・・・やれやれ、やっと我が家に帰ったよ。お茶の時間にはまだ間に合うだろう。・・・
と言う先生の声が聞こえてきても不思議ではない感じがしました。