2009-01-01から1年間の記事一覧

歩く速さ(3)

高いビルや塔の上から下の街を見下ろした時、下を歩いている人たちの姿がとても小さく豆粒のように見えることはよくあります。豆粒あるいは丸い粒が、一見何の規則性もなく動いているように見えるのは、細胞の中の分子や金属の中の原子の動きをちょっと想起…

歩く速さ(2)

漱石の「坊ちゃん」は多分随分速く歩いたのでしょうね。赴任して松山に着いた時、気短に列車から飛び降りたりしているのですから。「も少しゆっくり話してくれぞなもし。」などという松山の人たちの歩く速さには、我慢が出来なかったのではないでしょうか。 …

歩く速さ(1)

二年前、ロンドンを訪れたとき、人々の歩く速さに驚いたことがあります。どう見ても東京よりずっと速い。日本人はせっかちだから、歩く速さも一番速いのではと漠然と思っていましたが、そうではないみたいです。もっとも足の回転数だけは速いのかも知れませ…

道を尋ねること(3)

さて、材料にこれからの道を尋ねられて、果たして適切な道を示せるかどうか。適切な観察・分析の方法をとらなければ道も示せないわけで、果たして材料は正しく道を尋ねる相手を選べたのかどうか。観察しているのが自分で良かったのかどうか。 泉鏡花の作品に…

道を尋ねること(2)

仕事で顕微鏡をのぞいていたりすると、顕微鏡の下にある金属だのセラミックスだのの材料がどのような履歴をたどってきたのかがかなりの程度分かります。どのような過程を、道を通って現在の姿になったのか、各種の物理的な分析も含めて、材料を知るというの…

道を尋ねること(1)

見ず知らずの人からよく道を聞かれたり、何かを尋ねられたりする人というのがあるようです。 聞こうとする人はどこで相手を判断しているのだろうか。近寄りにくい人というのは当然避けるだろうし、何かこの人なら聞いても大丈夫そうだというオーラのようなも…

義仲の鎧(3)

鎧の材質に言及されることがほとんど無いと書きましたが、例えば同じく平家物語の別の箇所で、矢が鎧を射通さなかったという記述はあります。これは鎧の鋼板の強度(機械的性質)を表しているわけで、先程の鋼板が高炭素鋼領域を含み、さらにそれが成形の段階…

義仲の鎧(2)

木曽義仲が死んだのは寿永3年1月21日、入相の頃となっています。平家物語の一節、「木曽最期」の段に、 木曽左馬頭(さまのかみ)、其日の装束には、赤地の錦の直垂(ひたた れ)に、唐綾をどしの鎧着て、鍬形うったる甲の緒しめ、・・・ と、見事な武者ぶり…

義仲の鎧(1)

5月初め、滋賀県膳所にある義仲寺で奉扇会という儀式があり、縁あって見学をさせて貰うことが出来ました。義仲寺は、この近くの粟津の松原で源義経の軍と戦って命を落とした木曽義仲の墓のあるところです。 この寺に芭蕉の墓が建てられてあり、翁堂という小…

桜桃の季節(2)

6月から7月、フランスやイタリアにはサクランボがたくさん出回ります。アメリカン・チェリーに色も大きさも似ていますが、味はずっとおいしいと思います。パリでも郊外の家には桜桃の木がよく植えられていて、同僚の家に招かれると、サクランボの実る木の…

桜桃の季節(1)

サクランボの季節、と言っても太宰ではなく、児童文学者の小沢正さんについてのことです。小沢さんが逝かれて一年が経ちました。小沢さんは「目を覚ませトラゴロウ」「のんびりこぶたとせかせかウサギ」「世界一きたないレストラン」などなど、幼年を対象に…

浦島の記憶(4)

面白いことにこの記憶合金は繰り返し使用しているうちにその効果が薄れてくる、即ち記憶ぼけが出てくることが分かっています。 何だか人間に似ていて親しみを感じる? 形状記憶合金という材料がこれほど人の興味を惹く(他の金属材料でこれほど人が耳をそばだ…

浦島の記憶(3)

宇宙が誕生してまもなくの間に次々に元素が生成され、チタンなりニッケルなりが生まれてきたわけですが、チタンとニッケルが混ぜ合わさって合金になった状態で自然界に存在するわけではありませんから(記憶効果を発現するのはチタンとニッケルが等しい原子比…

浦島の記憶(2)

いきなり話は変な方向に飛びますが、人間・生物以外のものは記憶を持つのでしょうか。ダリの描いた奇妙な絵を思い出します。あるいはロボットに埋め込まれた記憶、コンピュータ・メモリーの記憶・・・。 こんなことを考えたのも、形状記憶合金という金属が頭…

浦島の記憶(1)

「浦島は実に魅力的な物語です。竜宮で過ごした年月が玉手箱の煙とともに浦島の身に積もり、あっという間に浦島は老人になってしまう。故郷での年月は浦島の中には何も残っていないで、夢から覚めたあとのよう。魅力的なのは時間の感覚の不思議さとともに、…

ユリシーズ(3)

その書店の棚に所狭しと並んだ膨大な(その時はそう見えました。今は東京にもそれに似た書店がありますから、それほど驚きはしないのかも知れません)情報の中から、引きつけられたのは南米に関する本でした。 ガイド、旅行記あまたある中、「South America Ha…

ユリシーズ(2)

もう30年以上前のある年、夏の前、偶然店に入って何気なしに棚を見回していると、それまで自分にとってはヨーロッパ、アメリカ、日本くらいしか漠然と頭になかったのに、そこに並べられた本の背表紙から実に様々な国が、世界が立ち上がってくる感じがして、…

ユリシーズ(1)

ユリシーズと言ってもホメロスの作品のことではなく、セーヌ川の中の島、サン・ルイ島にある古書店の名前です。サン・ルイ島は旅行者が詰めかける夏の一時期を除けば非常に落ち着いて静かな場所で、ノートルダム寺院のあるシテ島からほんの少ししか離れてい…

骨を歌う人(3)

中也は、自分の骨についてこう書いています。 生きていた時に これが食堂の雑踏の中に 座っていたこともある みつばのおしたしを食ったこともある その通り、しっかりと腰骨を据えて、酒なんか飲んでいたことだってある。何だか落語の「野ざらし」を思い浮か…

骨を歌う人(2)

人間が病気や事故等で骨の一部を欠損した場合、しばらく前までは自分の体のどこか他の部位から削り取ってくるか、他人の骨から頂いてくるかして欠損部を埋めることをしてきたのですが、現在は人工の材料を埋め込んでやることが出来るようになっています。CT…

骨を歌う人(1)

ホラホラ、これが僕の骨だ と、詩人は歌っています。 骨の尖(さき)はしらじらと雨に濡れ、ヌックと出ていて 光沢もなくただいたずらにしらじらと雨を吸収している 骨について、こんな内容を中原中也は表現しています。自分の骨を見るなんていうことは、実際…