歩く速さ(2)

 漱石の「坊ちゃん」は多分随分速く歩いたのでしょうね。赴任して松山に着いた時、気短に列車から飛び降りたりしているのですから。「も少しゆっくり話してくれぞなもし。」などという松山の人たちの歩く速さには、我慢が出来なかったのではないでしょうか。

 もう一つ、歩く人で印象的なのは、P.ジュースキントの「ゾマーさんのこと」の主人公。このゾマーさんは、雨の日も風の日も嵐の日でさえ、ひたすら歩き続ける人です。誰にもその目的は分からない。何かに追われるようにただひたすらに、それもかなりの速さで。少年がその悲劇的な最期を見届けることになる話です。

                       (この項続く)