浦島の記憶(1)

 「浦島は実に魅力的な物語です。竜宮で過ごした年月が玉手箱の煙とともに浦島の身に積もり、あっという間に浦島は老人になってしまう。故郷での年月は浦島の中には何も残っていないで、夢から覚めたあとのよう。魅力的なのは時間の感覚の不思議さとともに、遙かに離れた空間が一瞬のうちに感じ取れる、今はこちらに身を置いているが、確かに少し前まで別の場所(空間)に居たはずなのにという感覚が際だって感じられるからではないでしょうか。
リップ・ヴァン・ウィンクルは同じような話ですが、時間経過の不思議は感じ取れるものの、浦島に見られるような空間移動の不思議さは余り感じさせないように思います。というのも、リップの行った山は近くに見えているからですね。
 
ところで浦島は、竜宮での記憶を保っていたのでしょうか。小さい頃に読んだ絵本や昔話のをおぼろげに思い出してみても、その辺は定かでありません。白い煙とともに、乙姫も何もかも記憶の彼方に去ってしまったのか。御伽草子の「浦島太郎」を読んでみると、助けた亀が女性として現れ、竜宮で夫婦となる話になっていて、乙姫様は出てきません。いくつもバージョンがあるようです。いずれにせよ、故郷に戻った浦島が300年とも700年とも言われる年月を一手に自分の身に引き受け、自分が何者であるのかと悩むわけですが、竜宮で過ごした記憶は残していたのだと私は思っています。     (この項続く)