浦島の記憶(2)

 いきなり話は変な方向に飛びますが、人間・生物以外のものは記憶を持つのでしょうか。ダリの描いた奇妙な絵を思い出します。あるいはロボットに埋め込まれた記憶、コンピュータ・メモリーの記憶・・・。
 こんなことを考えたのも、形状記憶合金という金属が頭に浮かんだからです。形状記憶効果を持つ合金の発見は1950年代にさかのぼりますが、実用的に最も注目されるチタン・ニッケル系の記憶合金が発表されたのは1964年(アメリカ)です。現象としては、予め覚えさせておいた形状がある温度になると発現するというものです。(例えば予め真っ直ぐな形状を熱処理と加工によって与えておき、これを一度リセットして曲げた状態にしておきます。この状態で熱を与えると、元の真っ直ぐな形状に戻る。)
 わかりやすい実例として、宇宙空間で用いられる衛星用アンテナがあります。地上で小さく折りたたまれた状態で衛生に載せて打ち上げ、宇宙空間で太陽の熱を受け、本来のアンテナの形状に開くというアイデアです。あるいは血栓フィルターも同じ考えで、小さくたたんで注射器で体内に入れ、血管の中で体温により記憶させておいた形状に戻ってフィルターとしての役割を果たすというものです。
 この合金は、一体何を記憶しているのでしょうか。
 我々の目に見える状態で言えば、予め与えられた形、というのは確かにそうですが、ミクロな観点から記憶効果のメカニズムを考えると、元の原子配列(結晶構造)を記憶していると言うことになります。
                   (この項続く)