桜桃の季節(2)

 6月から7月、フランスやイタリアにはサクランボがたくさん出回ります。アメリカン・チェリーに色も大きさも似ていますが、味はずっとおいしいと思います。パリでも郊外の家には桜桃の木がよく植えられていて、同僚の家に招かれると、サクランボの実る木の下で実に気持ちの良い食事をすることが出来ました。パリの南に延びる郊外電車の閑散とした小さな駅のホームに、たわわに実を付けた木がせり出して、電車を待つ間、手持ちぶさたにもいで食べたこともあります。
 今、フランスでは(フランスに限らず、ヨーロッパのかなりの国に共通ですが)移民の問題が顕在化して、例えば先程の郊外電車の沿線でもパリの街に近いところは、これら移民の人たちが多数を占めるところが多くなっているようです。以前、自分が住んでいた郊外の駅を何十年ぶりかに訪ねたら、すっかり様子が変わっていました。桜桃の木の植えられた庭を持つような家は、その線の郊外のずっと南の方にしか見られなくなっているようです。
 いずれ、パリ・コミューンの時と同じような何かが起きるのではないかと(散発的ではなく)思えるのですが。フランスへ行くことに憧れて、結局果たさなかった小沢さんは、この季節にどんなことを考えるのかと思ってしまいます。

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