ユリシーズ(2)

 もう30年以上前のある年、夏の前、偶然店に入って何気なしに棚を見回していると、それまで自分にとってはヨーロッパ、アメリカ、日本くらいしか漠然と頭になかったのに、そこに並べられた本の背表紙から実に様々な国が、世界が立ち上がってくる感じがして、めまいを覚えました。

 当時日本で、いわゆる辺境と称される国々の案内書など殆ど目にしなかった時代です。「地球の歩き方」というガイドブックのシリーズは現在沢山出ていますが、これもまだ無かったのではないかと思います。フランスでは「世界の放浪」というような名前のガイドブックのシリーズが出ていました。古くから探検家を輩出したり、また広大な旧植民地があったせいかもしれませんが、あらゆる国についてかなり詳細なデータを蓄積しているという印象でした。「ヌーヴェル・フロンティエール(新しいフロンティア・国境)」という小さな旅行社が学生街の一角に出来、知られぬ土地への冒険的な旅を売りにして、少しずつ勢いを広げている時代でした。日本の「H.I.S.」が出来て、拡大していった様子に少し似ています(会社の性格は違いますが)。

                     (この項続く)