鉄を歌う人(2)
鉄を表現するとすれば、その硬さ、強靱さ、冷たい肌触り、でなければ錆? 日本の詩人で鉄と肌合いの合いそうな人を探したら、吉田一穂にこんな作品がありました。
白鳥 15
地に砂鉄あり 不断の泉湧く。
また白鳥は発つ!
雲は騰がり、塩こごり成る、さわけ山河。
砂鉄はいかにも日本の鉄の表現にはふさわしいかも知れません。
石川善助の「ギリヤーク」の詩にも鉄のイメージがあります。鉄の肌触りが、賢治も含め彼らの北方の感覚に合うのだろうと考えます。吉田一穂は北海道の出身ですし、石川善助は仙台の出身。
鋼は焼き入れという処理により、結晶構造を変えて不安定な組織に変化します。この組織が極端に硬い性質、刃物にした場合にはその切れ味を生むわけですが、そのままでは脆いので別の処理を組み合わせます。この硬い、多くのものを切り込む性質が、鉄鋼の特徴として認識されるのでしょう。
次の葛原妙子の歌は、鉄そのものではなく、ナイフを歌ったものですが、鋼の性質をこれほど鮮やかに言い表した詩を今のところ他に知りません。
早春のレモンに深くナイフ立つる をとめよ素晴らしき人生を得よ
私はこれを少女の心の表現であるよりも、鋼の性質を際だたせた表現のように感じました。