境界について(3)

 金属などの材料中には、一般に結晶粒界という境界が多数存在します。隣り合った領域での原子の並び方の方位の違いがこの境界を生んでいます。隣同士では基本的な性質は同じでも、この並び方の向きだけがわずかに違っているという訳です。この狭い境界の部分では、原子の配列も乱れ不純物が集まりやすくなっていることなど、通常の状態とは少し異なる状態が見られます。また、隣の領域を進んできた歪みが、この境界で一旦止められることも起こります。国境や空港の特異性と似ているように思えます。

 宮沢賢治の「雪渡り」という作品の中で、幼い子供達がキツネの国を訪ねますが、少し年長の兄たちにはもはやその国は訪ねられないことになっています。ここでの境界は、失われた時間と言うことになっているようです。

                 (この項終わり)