ブザンソンの秋 (1)

 フランスの東端に位置するブザンソンという街へ、この10月に仕事の関係で行く機会がありました。スイスとの国境に近く、ジュネーブまで車で1時間ほどの距離。この地方の首都ですが、こじんまりとした瀟洒な街でした。街の中心部はドゥー河に囲まれ、河岸のポプラやプラタナスは見事に黄色く色づいていました。
 ブザンソンは有名な音楽コンクールの開かれるところで、小澤征爾がこのコンクールを登龍門として世界に羽ばたいていったことから、日本でも名前だけは知られていると思います。この街を訪ねたのは2回目ですが、前回は鉄道の駅前からタクシーに乗った時、年を取った重々しい感じのドライバーで、珍しくも車の中でバッハをかけていました。こちらが日本人と分かると、「何十年か前、ここの音楽祭でオザワが賞を取った・・・。」と話しかけてきました。
 今回会ったフランス人の一人は、日本で柔道の修行をしてきた人で、この街に道場を構えています。現在は企業のコンサルタントのような仕事もしていて、「ネマワシ」などという言葉も知っています。見学させて貰った道場は、小さな子供から女性まで、年代も幅広い人たちが集まっていて、ここに来ると誰も肩書きのことなど知らないし気にもしていない、人と知り合うのに非常によい環境なのだと言っていました。道場の練習生たちはかなり強そうで、フランスの柔道の層の厚さを実感しました。
 気候は日本よりひと月ほど早く進んでいる感じで、山に近いせいか、朝夕はかなり冷え込みます。空気の透明感は、ヨーロッパの秋を深々と感じさせてくれます。