幸福の国

 GNPよりも幸福度を目指すということでよく取り上げられるようになっているブータン。十年ほど前、主要道路も整備され始めたころに訪ねたことがあります。個人旅行は許可されていず、必ずガイドをつける必要があり(実際問題、それなしではまず無理)ましたが、非常に充実した旅でした。顔立ちだけでなく文化も日本に似たところがたくさんあること(そばや豆腐など)、中部の田舎の村の風景は黒沢の映画「夢」に出てきたラストの風景にそっくりなことなどがとても印象に残っています。マツタケも食べることができました。(醤油のなかったのが残念だったが)ただ、食事は一般に唐辛子を信じられぬほど大量に使い、何日かでかなり参りました。
 人々のたたずまいも含め非常に印象の良い国だったのですが、一つ二つ気づいたこと。最近の新聞等の報道でも見かけたのは、以前から隣のネパールからの移民、難民がかなりいて、差別をされた状態でいるようだということです。実際、道路工事現場などで働いているのはそのような人々だということを自分の目で見ました。小さい子供や女性を含めた大きな家族が、ほこりまみれで働き、希望のない目で我々を見やりました。また、首都のティンプーでマーケットにバングラデシュからの品物が安く入ってきているのを確認しました。地理的に近く流通が容易なのだと思いましたが、中国のものではないのだということが当時としてはちょっと意外に感じたものです。政治的にも中国とは少し距離を置きたいということだったかもしれません。現在ではバングラデシュは日本企業の次の進出先に考えられているようで、波がここまで進んできたかという感じです。
 ブータンは山岳国ですから川の水量が豊富で、それをエネルギー資源として活用できるようです。そのあたりにこれからの生きる道があるのかもしれません。やはり十年以上前、日本のJICAで途上国の研修生たちを教える機会があり、その時にブータンの人が一人だけ来ていたことがありました。しかしこの国に果たして日本のような工学がどこまで必要なのだろうかと考えてしまったことを記憶しています。
 幸福の国がどのようになってゆくのか心配でもあり、また興味もあります。