浦島の記憶(4)

面白いことにこの記憶合金は繰り返し使用しているうちにその効果が薄れてくる、即ち記憶ぼけが出てくることが分かっています。 何だか人間に似ていて親しみを感じる? 形状記憶合金という材料がこれほど人の興味を惹く(他の金属材料でこれほど人が耳をそばだ…

浦島の記憶(3)

宇宙が誕生してまもなくの間に次々に元素が生成され、チタンなりニッケルなりが生まれてきたわけですが、チタンとニッケルが混ぜ合わさって合金になった状態で自然界に存在するわけではありませんから(記憶効果を発現するのはチタンとニッケルが等しい原子比…

浦島の記憶(2)

いきなり話は変な方向に飛びますが、人間・生物以外のものは記憶を持つのでしょうか。ダリの描いた奇妙な絵を思い出します。あるいはロボットに埋め込まれた記憶、コンピュータ・メモリーの記憶・・・。 こんなことを考えたのも、形状記憶合金という金属が頭…

浦島の記憶(1)

「浦島は実に魅力的な物語です。竜宮で過ごした年月が玉手箱の煙とともに浦島の身に積もり、あっという間に浦島は老人になってしまう。故郷での年月は浦島の中には何も残っていないで、夢から覚めたあとのよう。魅力的なのは時間の感覚の不思議さとともに、…

ユリシーズ(3)

その書店の棚に所狭しと並んだ膨大な(その時はそう見えました。今は東京にもそれに似た書店がありますから、それほど驚きはしないのかも知れません)情報の中から、引きつけられたのは南米に関する本でした。 ガイド、旅行記あまたある中、「South America Ha…

ユリシーズ(2)

もう30年以上前のある年、夏の前、偶然店に入って何気なしに棚を見回していると、それまで自分にとってはヨーロッパ、アメリカ、日本くらいしか漠然と頭になかったのに、そこに並べられた本の背表紙から実に様々な国が、世界が立ち上がってくる感じがして、…

ユリシーズ(1)

ユリシーズと言ってもホメロスの作品のことではなく、セーヌ川の中の島、サン・ルイ島にある古書店の名前です。サン・ルイ島は旅行者が詰めかける夏の一時期を除けば非常に落ち着いて静かな場所で、ノートルダム寺院のあるシテ島からほんの少ししか離れてい…

骨を歌う人(3)

中也は、自分の骨についてこう書いています。 生きていた時に これが食堂の雑踏の中に 座っていたこともある みつばのおしたしを食ったこともある その通り、しっかりと腰骨を据えて、酒なんか飲んでいたことだってある。何だか落語の「野ざらし」を思い浮か…

骨を歌う人(2)

人間が病気や事故等で骨の一部を欠損した場合、しばらく前までは自分の体のどこか他の部位から削り取ってくるか、他人の骨から頂いてくるかして欠損部を埋めることをしてきたのですが、現在は人工の材料を埋め込んでやることが出来るようになっています。CT…

骨を歌う人(1)

ホラホラ、これが僕の骨だ と、詩人は歌っています。 骨の尖(さき)はしらじらと雨に濡れ、ヌックと出ていて 光沢もなくただいたずらにしらじらと雨を吸収している 骨について、こんな内容を中原中也は表現しています。自分の骨を見るなんていうことは、実際…

サッラディーンの剣(2)

ところでダマスカスには他のアラブの都市と同様、大きなスーク(市場)がありますが、メインのハミディア・スークは日本のアーケード街を巨大にしたような感じでもう一つ面白みはなく、それよりも横道にそれたところの古いスークを歩く方が興味深かったと記憶…

サッラディーンの剣(1)

シリアの首都ダマスカスの城壁のそばに、アラブの英雄サッラディーンの銅像があります。シリアを統一して十字軍を破り、エルサレムを奪還した人物ですが、マントを風にひるがえす馬上の姿は精悍そのもの。(もっとも、最近知ったことですが、イスラム世界でも…

鉄を歌う人(2)

鉄を表現するとすれば、その硬さ、強靱さ、冷たい肌触り、でなければ錆? 日本の詩人で鉄と肌合いの合いそうな人を探したら、吉田一穂にこんな作品がありました。 白鳥 15 地に砂鉄あり 不断の泉湧く。 また白鳥は発つ! 雲は騰がり、塩こごり成る、さわけ山河…

鉄を歌う人(1)

私は名前に「鉄」がついているので、鉄のことが多少気になります。鉄は宇宙にいつ出来たか、人類が鉄を見いだしたのはいつ頃か。これらに関しては沢山文献もあります。例えば、最初に製鉄(原始的な意味での)を行ったのはヒッタイト人ということになっていた…

パドルビーはどこに(2)

しかしこの村が本当にパドルビーのモデルなのかというと、多少の違和感も覚えました。確かに垣根に囲われた広い庭の館もありますが、少し小さいかな。何しろドリトル先生の家の庭は1エーカー(1200坪ばかり)ほどもあって、様々な鳥や動物たちがそこで暮らし…

パドルビーはどこに(1)

昨年夏にイギリスの田舎を、車を借りて回りました。ハイランドに近い湖水地方もひとつの目的でしたが、もう一つの目的はコッツウォルズの村々。今や人気の高い観光地で、ハニーストーンの壁の小さな村々も場所によっては大勢のツーリストが押し寄せます。そ…

象の住む国(2)

ラオスについての続きで、象ではなく僧(そう)に関することです。タイと同様、ラオスも仏教国ですから町で沢山の坊さんを見かけます。写真はルアンパバーンでの早朝の托鉢風景。 子供が寺に入って坊さんになることを家族、特に母親が望むのだと言っていました…

象の住む国

この夏、ラオスに行きました。北部のルアンパバーンは14世紀頃、ラーンサーン王国の首都だった町で、ラーンサーンは100万頭の象という意味だそうです。ラオスには今でも千頭程度の野生の象がいるということでした。 タイのチェンマイからラオス航空機でルア…

白い象について(2)

「白い象の街」という作品を書いた時、意識の中にどこからか白い象がひょっこりひょっこりと入り込んで歩いてゆくイメージが現れました。街の外から(意識の外から)白い象が訪ねてくる・・・そんな感じです。もう随分前のことですが。 白い象は普賢菩薩の乗り…

白い象について

HP「白い象の街」を開設しています。これは04年に出した短編集のタイトルですが、ご興味をもって頂ければそちらへもどうぞ。 (http://www.shiro-zou.com/) BLOGでは気軽に思いつくことを書き込んでゆくつもりです。